制　　作：1966(昭和41)年　東宝 　　 上映時間：130分
  原作･脚本･監督：松山善三
　出　　演：高峰秀子、小林桂樹、原泉、草笛光子、沼田曜一

あらすじ

　竜光寺の嫁秋子〈高峰秀子〉は幼いとき、高熱を発して耳が聴こえなくな
った。戦争中、大空襲の中で一人の男の子アキラを拾って育てたが、戦後、
留守の間に家人に孤児収用所に入れられてしまう。秋子の夫は発疹チブスで
急死したので実家に戻される。実家には母たま〈原泉〉、姉信子〈草笛光子
〉、弟弘一〈沼田曜一〉がいるが、姉と弟からは邪険にされる。聾唖学校の
同窓会で受付の片山道夫〈小林桂樹〉と知り合い、結婚を申し込まれる。そ
の誠実な人柄と、聾唖者は一人で生きるのは難しく、二人なら生きていける
と信じた秋子は結婚を承諾する。二人の間に子供が生まれるが、両親とも耳
が聴こえないため子供を事故で死なせてしまう。二人はショックを受けるが、
気を取り直して靴磨きで生計をたてている。
　その頃、姉信子は家出しバーで稼ぎ、弟の弘一はぐれて、刑務所に入って
いる。弘一が出所したが、仕事がなく、昔の仲間と付き合うようになり、金
に困って母親の家を売ってしまう。住むところのない母親は秋子の家に転が
り込んできた。秋子に子供が生まれた。子供は男の子で一郎と名付けた。今
度は事故がないようにと、たまが子供の面倒を見るようになった。たまは金
を出して、ミシンを買い、秋子は内職に励んだ。道夫は植字工になり生活は
やや安定してきた。一郎はすくすくと育ち、未来に明るさが見えてきたが…
…

解説

　木下恵介監督の一番弟子と言われた松山善三の第１回監督作品である。共
に聾唖者というハンディを背負った夫婦が、お互い助け合い、二人三脚で戦
後の混乱期を生き抜く物語である。二人は言葉が通じないから手話で意志を
交わし合う。手と指を組み合わせ、目の表情、体全体の動作で夫婦の細かい
感情を伝える。サイレント映画に近いドラマだが、スーパー・インポーズを
用いて観客の心に強く訴えた。夫婦役を演ずる小林桂樹と高峰秀子は、ハン
ディギャップによる苦難を等身大で演じ、人々を感動させた。
　高峰秀子（1924〜2010）は５歳の時、松竹映画『母』のおかっぱ頭の子役
でデビューしてから1979年『衝動殺人』を最後に引退するまで、実に300本
以上の映画に出演した大女優である。1955年松山善三と結婚し、松山の第１
回監督作品に出演した。昨年12月10日死去。享年86歳。
　小林桂樹（1923〜2010）はサラリーマン物から社会派ドラマまで、幅広く
活躍し、その生涯において253本の映画に出演した。代表作は『ここに泉あ
り』（1955）、『裸の大将』（1958）、『黒い画集』（1960) 、『名もなく
貧しく美しく』がある。2010年9月16日死去。享年87歳。