鑑賞映画解説201119

鑑賞映画の解説

歩いても歩いても
＜鑑賞日：2012・1・9＞

  制　　作：平成２０年　「歩いても歩いても」製作委員会　 上映時間：114分
  監督、原作、脚本：是枝裕和
　出　　演：阿部　寛、夏川結衣、YOU,　高橋和也、樹木希林、原田芳雄

あらすじ

　夏の終わり、横山良多（阿部寛）は妻のゆかり（夏川結衣）と息子を連れて、三浦半島にある久里浜近辺の実家を訪れた。絵画修復士だが、今は職探しの最中で久しぶりの帰郷も気が重い。良多と再婚して日の浅いゆかりは、初めて良多の両親と会うので緊張している。亡くなった前夫との子である１０歳のあつしはまだ良多のことを「良ちゃん」と呼んでいる。すでに良多の姉のちなみ（YOU）一家が来ており、母親のとし子（樹木希林）と料理に忙しい。散歩から父親の恭平（原田芳雄）が戻り、ちなみの夫や子供も加わり、久々に家族が揃った。昼の食卓には、とし子が腕を振るった家庭料理と出前の上寿司が並び、話に花が咲く。午後、今井という青年が線香を上げに来た。１５年前、海で彼を助けたために良多の兄の純平が溺死し、今日が命日だったのである。　ちなみ一家が帰り、老夫婦と良多たちは出前したうな重を夕飯にする。ゆかりが場を盛り上げようとするが会話は弾まない。そのうち、とし子がレコードを取り出してくる。「ブルーライト・ヨコハマ」で、３０年以上も前の恭平の浮気にまつわる恨みの曲だという。恭平は憮然としている。良多と息子が風呂から出ると、居間に舞い込んだ紋黄蝶をとし子が「純平かもしれない」と夢中で追っていた。とし子を心配した良多が蝶を庭に逃した後も、外を見つめて何事かつぶやいていた。・・・

解説

　監督の是枝裕和は家族のあり方を好んで取り上げる。この映画でも、久しぶりに帰省した次男の目を通じて両親、姉夫婦とのかかわりが淡々と描かれている。日本映画では、小津安二郎や成瀬巳喜男らが、家庭という小さな世界の中での親子、夫婦の小事件を丹念に描き、人間の哀しみや喜びを画面に映してきた。是枝監督の映画はこれと同じ系列に属する映画である。長男を不慮の事故で亡くした母親の哀しみは、１５年を経ても癒されない。この映画の中で、迷い込んだ紋黄蝶を「純平かもしれない」と言って夢中で追いまわす母親の姿は胸を打つ。『歩いても歩いても』は１９６９年の石田あゆみのヒット曲である。この映画のような平凡な一日の繰り返しが人生である。「歩いても歩いても」変わらない人生だが、映画のラストシーンのように老いた両親が死に、良多が新しく増えた家族を加えて、墓参に行くように、確実に変わっているのもまた人生である。