鑑賞映画の解説

男はつらいよ　寅次郎ハイビスカスの花
（シリーズ第25作）
＜鑑賞日：2013・8・5＞ 
  制　　　作：1980年　　　松竹　　　　104分
  監　　　督：山田洋次
　出　　　演：渥美　清、倍賞千恵子、浅丘ルリ子、前田　吟、下條正巳、笠智衆
　　　　　　　太宰久雄、三崎千栄子
あらすじ

　寅次郎が久しぶりに柴又の家に帰ると、リリーから手紙が届いた。旅先の沖縄で病に倒れ入院中で、寅次郎に会いたいという。飛行機に乗るのが嫌だと駄々をこねる寅次郎だが、空港では美人のスチュワーデスに連れられて搭乗し何とか沖縄に着いた。5年ぶりの再会にリリーは涙を流して喜び、寅次郎が来た甲斐あって病状は日増しに回復し、退院すると二人は療養のため、漁師町に部屋を借りた。寅次郎はその家の息子、高志（江藤潤）の部屋で寝起きするようになった。リリーの病気が治るにつれて寅次郎は身をもてあまし、また、沖縄の夏の暑さに辟易して涼を求めて、海洋博記念公園に遊びに行き、水族館でイルカの調教師をしている娘かおりと知り合った。
　一方、リリーは回復すると高志の案内で、キャバレーを回って仕事を探し始めた。リリーの体を気遣う寅次郎に、リリーは夫婦に似た感情を抱き始める。かおりと浮かれて帰った寅次郎をリリーがとがめると、逆に寅次郎はリリーと高志との関係を疑うような言葉を返し、好意で道案内をしている高志と取っ組み合いの大喧嘩となった。翌日、リリーは置き手紙して沖縄を去った……
解説

　山田洋次は浅丘ルリ子を歌手リリー松岡として、第11作「寅次郎忘れな草｣と第15作「寅次郎相会傘」と2本撮っている。この｢ハイビスカスの花｣はこの二つの作品が合体して生まれている。「忘れな草」で、寅次郎は北海道でリリーと出会い、「相合傘」では結婚まで口にするようになる。「相会傘」の二人は目と目とを見つめ合い、以心伝心で心が通い合った。そしてこの映画では、さらに一歩進んで共同生活をするようになる。山田洋次は寅次郎の恋遍歴の行く末をリリーに託したのである。
　沖縄で共同生活をして、喧嘩になっても夫婦の痴話喧嘩であり、決定的な亀裂は生じない。喧嘩の翌日、リリーは寅次郎を残して沖縄を去った。淋しくなった寅次郎はフラフラになって柴又に帰る。寅次郎が心配になったリリーが柴又に来て、寅次郎から「所帯を持つか」と言われるがリリーは冗談だとして聞き流してしまう。永遠に平行線である。山田洋次は二人のフィナーレを第48作「寅次郎紅の花」（1994）に置いた。くしくも、その映画は渥美清の遺作となり、48本続いた「男はつらいよ」シリーズの最終作となったのである。