鑑賞映画の解説

愛と哀しみのボレロ
Les Uns et les Autres
＜鑑賞日：2015・1・26＞ 
　制　　　作：1981年　フランス　　185分
　監　　　督：クロード・ルルーシュ
　出　　　演：ロベール・オッセン、ニコール・ガルシア、ジェラルディン・チャップリン、
　　　　　　　ジエームズ・カーン、ジョルジュ・ドン、リタ・ポールブールド、
　　　　　　　ダニエル・オルブリフスキー、マーシャル・メリル
あらすじ

　1930年代から1960年代にわたるモスクワ、パリ、ベルリン、ニユーヨークを舞台にした4家族の物語である。
　1936年のモスクワ。ボリショイバレエ団のプリマのオーデションに敗れたタチアナは選考委員のボリス（ジョルジュ・ドン）と結婚し男子を産むが、ボリスはドイツとの戦いで戦死する。タチアナはバレエの教師をしながら息子を育てる。息子のセルゲイ（ジョルジュ・ドンの二役）はボリショイバレエ団の名ダンサーに成長し、パリ公演の機に西側に亡命する。
　1937年、パリ一のキャバレー“フォリー・ベルジェール”のバイオリニスト、アンヌ（ニコール・ガルシア）はピアニストのシモン（ロベール・オッセン）と結婚し、男子をもうけるが、ユダヤ人であるため、ドイツ軍のパリ占領と共に拘束され収容所送りとなる。乳飲み子を抱いて列車に乗った二人は子供だけ助けたいと、途中の駅でそっと子供だけ置いていった。シモンはガス室で殺され、生き残ったアンヌは演奏活動をしながら子供を探す。子供はその土地の牧師に助けられ、ダヴィット（ロベール・オッセン二役）と名付けられ、成長してアルジェリア戦争に参加し、帰国後、作家として活躍し、精神病院に入っていた母親と再会する。
　パリ。ナイトクラブの歌手エプリーヌ（エブリーヌ・ブイックス）はパリに来ていたドイツ軍楽隊長のカール（ダニエル・オルブリフスキー）と出会う。パリ解放の際、パリ市民からドイツ軍の女と非難され、パリを追放され故郷に帰ってカールの子を産むが、身を恥じて自殺する。私生児として祖父母に育てられたエディット（Ｅ・ブイックスの二役）は、パリに出て、貧乏暮らしをしながらショーガールとなり、ＴＶのニュースキャスターとなる。
　エディットの父親であるカールは1938年、ベルリンでヒットラーの前でベートーベンを演奏し、認められ、軍楽隊長としてパリに赴任し、戦後ベルリンの妻のもとに帰ったが、愛児は空襲で死んでいた。戦後、指揮者として成功したカールはニューヨークのメトリポリタン歌劇場で米初演を果たすが、切符はユダヤ人に買い占められ、観客僅か2名という屈辱を味わう。
　1939年ニューヨーク。人気のミュージシアン、ジャック・グレン（ジェームズ・カーン）はヨーロッパ戦線に参加して帰国後、妻のスーザン（ジェラルディ・チャップリン）を交通事故で失う。娘のサラ（ジェラルデイ・チャップリン二役）は親の血を継ぎ、歌手として成功し、息子のジェイソン（ジエームスス・カーン二役）はサラのマネージャーとなる。
　1981年、パリ、トロカデル広場でユニセフ・チヤリテイコンサートが開かれようとしている。ＴＶの進行役はエディット、歌うはサラとダヴィッドの息子のパトリック、踊り手はセルゲイ、演奏指揮者はカール。運命の糸に操られるようにこれらの芸術家が一堂に会したのである。カールのタクトが振られ、エッフェル塔を背景にしてセルゲイの「ボレロ」のソロが始まった。
解説

　第二次世界大戦前の1937年から戦後1981年までの40年余にわたる波乱の時代に生きたモスクワ、パリ、ベルリン、ニューヨークの4家族の姿を通して激動の歴史を描いたクロード・ルルーシュの大作である。ルルーシュの家族はユダヤ人であるために迫害を受けながら苦難の時代を生き抜いてきたが、その時代に犠牲となった同胞へのレクイエムの映画でもある。パリに住むアンヌ一家はナチスの手で収容所に送られ、夫がガス室で殺され、子供とは別れざるを得ない。ようやく再会できたのは精神病院である。その一方で、ドイツ軍人に身を任せた歌手はパリ解放の時、頭を剃られ、市中を引き回され、パリ追放の仕置きを受ける。ドイツの指揮者はニューヨーク演奏会の際、ユダヤ人団体から観客2名という報復を受ける。歴史の荒波が人々の人生に大きな傷跡を残す。苦難の道を歩んだ人たちが、運命の糸に操られるようにエッフェル塔の下に集まり、ジョルジュ・ドンがボレロを踊るシーンは圧巻である。ボレロは延々と20分近く続く。ルルーシュたちのくぐりぬけてきた時代への思いが込められた20分である。音楽も『男と女』の作曲家のフランシス・レイ、『シエルブールの雨傘』のミシェル・ルグランを配し、最高の布陣とした。

　この映画のモデル
　　セルゲイ・イトヴィッチ――――ルドルフ・ヌレイユ
　　カール・クレーマー　―――――ヘルベルト・フォン・カラヤン
　　エデイット　―――――――――エディット・ピアフ
　　ジャック・グレン　――――――グレン・ミラー

　主な出演者の紹介
　ジョルジユ・ドン　（1947～1992）：　ロシア移民の子としてアルゼンチンに生まれる。バレエに興味を持ち、16歳の時、単身でベルギーに渡り、20世紀バレエ団に入団。数年でソリストになる。代表作は『ボレロ』。1992年エイズで死去。
　ダニエル・オルブリフスキー(1945～)：　ポーランド生まれ。アンジェ・ワイダ作品に多く出演し、他にドイツ映画、フランス映画に出演している。