鑑賞映画解説201511

鑑賞映画の解説

キリマンジャロの雪
Les Neiges du Kilimandjaro
＜鑑賞日：2015・9・14＞

  制　　　作：2011年　フランス　　107分
  監　　　督：ロベール・ゲディギャン
　出　　　演：アリアンヌ・アスカリッド、ジャン＝ピェール・ダルッサン

あらすじ

　マルセイユの港の埠頭の一角で、労働組合の委員長のミシェル（Ｊ・Ｐ・ダルッサン）が籤で引かれた名前を読み上げる。呼ばれた者はリストラ対象者である。ミシェルもその一人である。数日後、ミシェル夫妻の結婚30年を祝うパーティが開かれ、リストラされた社員も含めて多くの人が招待された。孫たちの歌う「キリマンジャロの雪」とともに贈られたサプライズプレゼントは、子供たちが拠金して集めたアフリカ旅行の航空券とお金だった。アフリカ旅行は夫婦の長年の夢だった。義弟ラウルはミシェルがなくした古いコミック雑誌を持ってきた。
　ある日の夜、妹夫婦と4人でカードゲームをしている最中、突然マスクをした二人組の強盗が押し入った。強盗は金品と共に、航空券とコミック雑誌を奪っていった。数日後、ミシェルはバスの中で、奪われたコミック雑誌と同じ物を手にした幼い兄弟と出会う。確かめると奪われた雑誌だった。ミシェルは兄弟を尾行して家を突き止め、警察に連絡した。ミシェルは兄弟の兄が犯人であり、彼は、ミシェルと同じくリストラされた同僚のクリストフだったことを知る。
　やがて、クリストフの事情が明らかとなった。兄弟の母親は早くから子供たちを置き去りにして家にいないこと、兄のクリストフが働いて兄弟を養っていること、会社をリストラされて生活が苦しくなってきたことが犯行の原因で、長ければ15年の実刑を免れないと聞いて、夫妻の心が痛む。妻のマリ＝クレールは誰も面倒をみない兄弟の世話をしに密かに通う。ミシェルとマリ＝クレールはそれぞれに幼い兄弟のことを思い、選んだ決断は……

解説

　フランスの港町マルセイユを舞台に、どんなに厳しい状況におかれても、人を思いやることの大切さを描いたドラマである。労働組合の委員長であるミシェルが引いた籤でリストラされた青年が幼い兄弟を養うために強盗を働く。刑期は15年、残された兄弟のためにミシェル夫妻はある決断をする。監督ロベール・ゲディギャンがフランスの文豪ヴィクトル・ユーゴーの詩『哀れな人々』からアイデアを得た作品で、マルセイユで生まれ、育った自分の生い立ちを生かし、南仏の青い海、明るい太陽を背景にして、社会派的視点を加えて、心温まるヒューマンドラマを作り上げた。
　題名の『キリマンジャロの雪』とは、ヘミングウエイの短篇小説からではなく、1966年にフランスで大ヒットしたパスカル・ダネルのシャンソンからとられている。切なく美しいメロディはキリマンジャロへの憧憬をあらわしている。